求核置換反応と脱離反応の競合

基礎反応

求核置換反応にはSN2反応SN1反応があり、脱離反応にはE2反応E1反応があります。

それぞれの反応は簡単に、

SN2反応:ハロゲンのついた炭素に塩基が求核攻撃して、置換生成物を生じる

SN1反応:まずハロゲンが解離してカルボカチオンを生じ、そこに塩基が求核攻撃をして置換生成物が生じる

E2反応:β水素を塩基が引き抜くと同時にハロゲンが脱離して、脱離生成物(アルケン)を生じる

E1反応:まずハロゲンが解離してカルボカチオンを生じ、塩基がβ水素を引き抜いて脱離生成物(アルケン)を生じる

という反応でした。

求核置換反応では塩基が炭素に求核攻撃するのに対して、脱離反応では塩基がβ水を引き抜くのが特徴です。

これらの反応は一体どんなハロゲン化アルキル、塩基が用いられたときに起こるのでしょうか。

反応様式的に、SN2反応とE2反応、SN1反応とE1反応がそれぞれ似ていて、SN2あるいはE2が起こる反応条件、SN1あるいはE1が起こる反応条件とがあるので、SN2/E2、SN1/E1として分類して考えます。

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SN2/E2反応条件、SN1/E1反応条件?


SN2およびE2反応が加速される反応条件、SN1およびE1反応が加速される反応条件を見分けるには、塩基(求核剤)に着目します。

SN2およびE2反応が促進されるのは、反応性の高い求核剤、強塩基を高濃度で用いたときです。

SN1およびE1反応が促進されるのは、反応性の低い求核剤、弱塩基を用いたときです。

ここで、求核剤、塩基という言葉を用いているのは、反応によってその呼び方が変わるからです。

求核剤というのは、文字通り求核(正電荷を好む)の試剤であり、SN2、SN1反応のように炭素上の正電荷に対して攻撃するので、求核剤と呼ばれます。

一方で、E1やE2反応といった反応では、β水素を引き抜く、すなわちプロトン(水素イオン)を受け取るので、塩基と呼ばれます。


反応性の高い求核剤および強塩基とは、HO、HSNH2などのアニオンに始まり、電荷を持たない化学種でもNH3、CH3NH2などが含まれます。

(ちなみに、電子供与基であるメチル基がついているメチルアミン CH3NH2 はアンモニアよりも塩基性が強いです)

反応性の低い求核剤および弱塩基とは、H2O、H2S、CH3OH(アルコール)などの化学種を指します。

したがって、

SN2/E2反応条件 → HO、HSNH2、NH3、CH3NH2… (高濃度)

SN1/E1反応条件 → H2O、H2S、CH3OH…

となります。

塩基で反応条件を見抜けるようにしましょう。

ハロゲン化アルキルの級数を見る


次に、ハロゲン化アルキルの級数を見ましょう。

起こる反応は、ハロゲン化アルキルの級数を見ることで大まかに分けることができます。

結論から言うと、

  ハロゲン化アルキル    SN2/E2     SN1/E1  
第一級×
第二級×
第三級
〇=両方起こりうる、×=両方起こりえない、△=片方のみ(E2反応)

のようになります。

覚えていてほしいのは、第一級第二級ハロゲン化アルキルにおいて、SN1/E1反応が起こらないという点です。

また、第三級ではSN2/E2のうちE2反応しか起こりません

理由

各反応を見てみるとその理由が分かると思います。

SN1/E1ではまず、ハロゲンの解離によりカルボカチオンを生じます。したがって、カルボカチオンの安定性が反応の進行に関係してきます。

カルボカチオンの相対的安定性は、

メチルカチオン<第一級<第二級<<第三級

であり、第三級カルボカチオンが圧倒的に安定であるということを思い出してください。

これゆえに、カルボカチオンを経由するSN1/E1反応は、第三級ハロゲン化アルキルの時のみ起こりえます。

求核置換vs.脱離

それでは、求核置換反応と脱離反応が両方起こる第一級:SN2/E2、第二級:SN2/E2、第三級:SN1/E1を詳しく見ていきましょう。

第一級ハロゲン化アルキルのSN2/E2

SN2反応における、ハロゲン化アルキルの違いによる反応性は、立体障害が理由で

第一級 > 第二級 > 第三級

でした。

一方でE2反応では、より安定である多置換のアルケンを生成するために、反応性は

第一級 < 第二級 < 第三級

となっていましたね。

したがって、第一級ハロゲン化アルキルの場合、置換反応すなわちSN2反応が優先します。

ですが、次のような場合はそうではありません。

ハロゲン化アルキルもしくは求核剤/塩基がかさ高い場合:

このような場合、ハロゲン化アルキルがかさ高いため炭素への攻撃が阻まれ、むしろ空いているβ水素の方に向かいます。

その結果、脱離反応すなわちE2反応が優先します。

第二級ハロゲン化アルキルのSN2/E2

第二級ハロゲン化アルキルの場合、SN2とE2の反応性は同程度となります。

この場合、生成比は塩基の強度、求核剤/塩基のかさ高さに依存します。

求核剤/塩基の反応性が高く、かさ高いほど脱離反応が優先します。

例として、酢酸イオンとエトキシドイオンを比較してます。

SN2優先

E2優先

酢酸イオンは、カルボニル基C=Oを持っていて、二重結合した酸素が電子吸引するので、Oの電子が引っ張られて電子密度が減少しますよね。

一方で、エトキシドイオンは、電子供与性であるアルキル基をもつために、電子密度が増加しています。

したがって、塩基性(≒電子を提供する能力)としては酢酸イオン < エトキシドイオンとなり、実際に酢酸イオンを用いると SN2優先であり、エトキシドイオンを用いると E2優先 となります。


また、反応系の温度によっても、SN2/E2の割合が変わります。

より高温では、脱離反応すなわちE2反応が優先します。

置換反応での生成物は、置換生成物とハロゲンイオンですが、

脱離反応での生成物は、脱離生成物、ハロゲンイオン、プロトン化した塩基

のように置換反応よりも多いため、脱離反応は置換反応よりもエントロピー変化が大きい(より乱雑になる)ので、よりエントロピーの大きい高温な環境では、脱離反応の方が好まれると考えられます。

第三級ハロゲン化アルキルのSN2/E2

第一級ハロゲン化アルキルと同じ考え方をします。

SN2反応におけるハロゲン化アルキルの相対的反応性は

第一級 > 第二級 > 第三級

E2反応の相対的反応性は

第一級 < 第二級 < 第三級

ですから、第三級ハロゲン化アルキルでは、E2反応のみが起こります。

第三級ハロゲン化アルキルのSN1/E1

SN1/E1では、カルボカチオンを経由するため、反応の進みやすさはカルボカチオンの安定性に依存し、第三級ハロゲン化アルキルのときのみ起こるのでした。

ここで、カルボカチオンの安定性に反応性が依存するなら、SN1/E1は同程度起こるのでは?と思うかもしれませんが、

第三級ハロゲン化アルキルでは置換反応つまりSN1反応が優先します。

これの理由としては、

SN1/E1反応条件では弱塩基が用いられるため、E1反応でプロトンを引き抜くよりも、SN1で炭素に求核攻撃する方が容易であるからと考えられます。

まとめ

  1. 塩基から反応条件を見抜く
    OH、NH3などの反応性の高い求核剤/強塩基   → SN2/E2
    H2O、CH3OHなどの反応性の低い求核剤/弱塩基 → SN1/E1
  2. ハロゲン化アルキルの級数を見て、下表と照らし合わせる
  3. かさ高さ、温度など条件を確認!!
  ハロゲン化アルキル    SN2/E2     SN1/E1  
第一級かさ高くない→SN2
かさ高い →E2
×
第二級反応性高い、かさ高い→E2
高温→E2
そうではない→SN2
×
第三級E2のみSN1優先

つまり、塩基の種類による反応条件の違いと、この表を覚えておけば問題ありません!

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