二つの炭素間二重結合(ene)をもつ炭化水素をジエン(diene)と呼びますが、特に
二重結合どうしが2結合以上離れているとき、孤立ジエン
二重結合どうしが一つの単結合により結ばれているとき、共役ジエン
と呼びます。
例)
孤立ジエンの場合はハロゲン化水素の付加や水の付加のようなアルケンの付加反応と同様に考えることができます。
- 求電子剤を1等量だけ加えたときには、主生成物はより安定なカチオンを生成する方になる
上の図の場合、マルコフニコフ則に従って、左の二重結合は第三級、右は第二級カルボカチオンを生成できるので左の二重結合への付加が優先される。 - 求電子剤を過剰に加えると、優先度の低い二重結合も付加反応が起こる
共役ジエンの場合、通常のアルケンの付加反応で起こる1,2-付加だけでなく、(二重結合の端を1位として)1位と4位に付加する1,4-付加という変わった付加反応を起こします。
1,4-付加反応が起こるのは、反応中間体のカルボカチオンが隣の二重結合により共鳴構造をとるためです。
ここでは、共役ジエンの反応の仕方について詳しく解説していきます。
反応機構
- 共役ジエンの末端の炭素に水素が付加して、アリルカチオンが生成する
- [1,2-付加]カチオンに求核剤が付加する
[1,4-付加]共鳴により二重結合が移動し、そこに求核剤が付加する
C=C-Cのような構造をアリル(allyl)基と呼びますが、二重結合に隣接する炭素に正電荷をもつC=C-C+
のカチオンをアリルカチオンと呼びます。
(芳香族官能基を総称するアリール基(aryl)と間違えないようにしましょう。紛らわしいですね。)
多重結合に隣接する電荷は共鳴により、電子が非局在化しています。
アリルカチオンの共鳴は、上図の括弧のように2つの共鳴寄与体により書き表すことができます。
この共鳴寄与体のどちらかに対して求核剤が付加するわけですが、
求電子剤が付加した炭素を1として求核剤が隣の炭素に付加した場合、1,2-付加生成物
求核剤が3つの結合をまたいで4つめの炭素に付加した場合、1,4-付加生成物
と呼びます。
また、最初の求電子剤(この場合、H-BrのH)は共役ジエンの末端に付加することに注意しましょう。
これは末端に付加することで、共役系であるアリルカチオンを生成できるためです。
反応について
非対称共役ジエンの場合
1,3-ブタジエンのように対称な分子の場合は、どちらの二重結合に求電子剤が付加しようが同じカルボカチオンが生成しますが、非対称な分子ではそうはいきません。
求電子剤が付加する二重結合は、生成するアリルカチオンの安定性を考えると分かります。
カチオンの安定性は第一級<第二級<第三級ですので、
第一級アリルカチオンを1pt、第二級アリルカチオンを2pt、第三級アリルカチオンを3ptとすると、
付加して生成するアリルカチオンは2つの共鳴寄与体により書けるわけですが、その共鳴寄与体の安定性ポイントの合計が高い方に付加しやすいということになります。
例えば1,3-ペンタジエンの場合について考えてみましょう。
黒の矢印の炭素に求電子剤が付加した場合、生成するアリルカチオンは第2級と第1級となります。
したがって、合計のポイントは3ptです。
赤の矢印に付加した場合、生成するアリルカチオンは第2級と第2級なので、合計のポイントは4ptとなります。
よって、求電子剤の付加は主に赤色の矢印の方に対して起こるということが分かります。
(重要!) 速度論的生成物と熱力学的生成物【主生成物はどれ?】
反応により複数の生成物が生じる場合、より速く生成する方を速度論的生成物、より安定な生成物を熱力学的生成物と呼びます。
そして、主生成物が速度論的生成物になるか、熱力学的生成物になるかは反応の条件により変わります。
速度論的生成物と熱力学的生成物はどれ?
①速度論的生成物→1,2-付加生成物:プロトン付加したとき、アニオンの近くにあるカチオンの方に結合
例えば、ブタジエンの場合を見てみましょう。
プロトン付加の直後、Br–はプロトンが付加した炭素の近くにいるので、最も近いカルボカチオンは内部に正電荷がある左のカチオンになります。
(原子の動きに比べて、共鳴のような電子の動きは圧倒的に速いので、正電荷が移動する間のBrの移動は無視して良いでしょう)
このように、単純に近い方が速く生成するという効果を近接効果と呼びます。
②熱力学的生成物→より安定な生成物:置換基がより多い方のアルケン
アルケンの安定性は、アルキル置換基が増えるほど増大するということを覚えているでしょうか。
ブタジエンの場合、1,2-付加生成物は1置換、1,4-付加生成物は2置換なので、1,4-付加生成物の方が安定となります。
したがって、ブタジエンの場合、熱力学的生成物は1,4付加生成物となります。
ここで、熱力学的生成物=1,4付加生成物ではないことに注意しましょう。
例えば、3,4-ジメチル-1,3-ペンタジエンの場合、非対称共役ジエンのため、前項のようにポイントを数えると外側の二重結合の方がポイントが高いため、灰色矢印の炭素にプロトンが付加します。
したがって、1,2-付加生成物と1,4-付加生成物はこのようになります。
このとき、1,2-付加生成物の方が置換数が多いアルケンのため、1,2-付加生成物は速度論的生成物であり、熱力学的生成物でもあります。したがって、いずれの条件でも1,2-付加生成物が主生成物となります。
また、置換数が同じ場合は、熱力学的生成物が主生成物となる条件(後述)で行うと、等量生成します。
速度論的生成物、熱力学的生成物が主生成物となる条件
速度論的生成物・・・低温で反応を行う
熱力学的生成物・・・高温で反応を行う
したがって、ブタジエンの場合、低温と高温で生成物は次のようになります。
まとめ
- 孤立ジエンはアルケンの付加反応と同様に考えることができて、
求電子剤を1当量→より安定なカチオンを生成する二重結合に付加する
求電子剤が過剰量→どちらの二重結合も反応する - 共役ジエンの生成物には1,2-付加生成物、1,4-付加生成物がある
- 共役ジエンの付加反応の主生成物を決める手順
- どちらの共役末端にプロトンが付加するかを見つける
→プロトン付加してできるアリルカチオンの安定性を考える - 速度論的生成物と熱力学的生成物を見つける
速度論的生成物→1,2-付加生成物
熱力学的生成物→より多置換のアルケンとなる方 - 反応条件を確認する
低温→速度論的生成物が主生成物
高温→熱力学的生成物が主生成物
- どちらの共役末端にプロトンが付加するかを見つける
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