アルケンの付加反応(ハロゲン化水素)

アルケン

アルケンへのハロゲン化水素の付加

アルケン+ハロゲン化水素
X=F, Cl, Br, I

C-C二重結合を含むアルケンは、ハロゲン化水素が付加するとハロゲン化アルキルを生成します。

とても単純な反応ですが、気を付けなければならない点がいくつかあるので、反応機構とともに解説します。

マルコフニコフ則がよく分からない/覚えられないという高校生にもぜひ見て欲しいです。

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反応機構


  1. 求核的アルケンが、求電子的水素に攻撃して、プロトン(H)が付加
    (ハロゲン-水素の結合電子はハロゲンが持っていく)
  2. 発生したカルボカチオンに、ハロゲンイオンが反応してハロゲン化アルキルが生成

反応機構を考えるのが初めての人もいるかもしれないので、改めて確認しておきましょう。

上の図のように、曲がった両矢印電子対(2電子)の移動を表します
一方で、曲がった片矢印1電子の移動を表します

基本、両矢印の方が目にすることが多いと思いますが、ラジカルが関わる反応などでは、片矢印も登場します。


電子対の移動において、電子対の出所に注目すると2種類あります。

  • 上の図の1段階目のように、結合が切れて(不均等結合開裂)、結合が一方の原子上に移動するパターン(上では、末端の炭素が2電子を持っていき水素と新たな結合を作ります)
  • 上の図の2段階目のように、原子の持つ電子対から提供されるパターン

結合が電子対の出どころの場合、どちらの原子が電子対を保持するのかに注意しましょう。

原子の持つ電子対から提供される場合、上のハロゲンのように、負電荷をもつ化学種から提供されるだけでなく、分子中のO,N,Sなどの非共有電子対をもつ原子がその電子対を提供することもあります。

有機化学とは、電子の移動を考える内容であり、

1段階目のように、電子不足な部分が求電子剤として、電子豊富な部分が求核剤として反応できることが多くあります。

つまり、どこの部分が電子不足なのか、電子豊富なのかを考えることが、反応機構の理解に繋がります。


ところで、1段階目で、疑問に思ったことはないですか?というか、思っていてほしいのですが、

Chemし
Chemし

切れた結合は、なんで末端のCと水素の結合に使われてるの?

カルボカチオン

要するに、

なんで右のカルボカチオンにならないのか?ということです。↓

反応について


水素はどっちに結合するのか?【位置選択性 | マルコフニコフ則】

1段階目のプロトンの付加では、カルボカチオンが生成します。

結論から言うと、より安定なカルボカチオンを生成するほうにプロトンが付加します。

ここで、カルボカチオンの安定性は、下の図の通りで

カルボカチオンの安定性

第三級 > 第二級 > 第一級 > メチルカチオン

となります。理由は超共役です。

第2級 or 第3級 vs. 第1級

プロピレンへの付加を考えてみると、

末端にプロトンが付加すると第2級カルボカチオンが、真ん中にプロトンが付加すると第1級カルボカチオンが発生します。

第1級カルボカチオンというのは、非常に不安定なため基本発生しないと考えていいです。

1級カルボカチオンは発生しない

したがって、生成物は2-ハロゲン化プロパンのみとなります。

候補に第3級と第1級カルボカチオンがあるときも、第3級カルボカチオンを経由する生成物のみが生成します。

第3級 vs. 第2級

2-メチル-2-ブテンへの付加をみてみましょう。

C-2にプロトンが付加すると、第2級カルボカチオンが、
C-3にプロトンが付加すると、第3級カルボカチオンが、生成しますよね。

3級は主生成物と2級は副生成物

第3級カルボカチオンはとても(相対的に)安定ですが、第2級も発生しないというわけではありません

したがって、主生成物は2-ハロゲン化-2-メチルブタン、副生成物が2-ハロゲン化-3-メチルブタンとなります。

実はこれらの規則は、高校化学でもやっているはずです。

「ハロゲン化水素がアルケンに付加する時に得られる主生成物は、最も多く水素が結合している方の炭素にプロトンが付加してできる生成物である」

というMarkovnikov(マルコフニコフ)則です。

高校化学では、この規則を丸暗記するかと思いますが、ふたを開けてみたら

置換基の少ない方の炭素にプロトンが付加することで、より安定なカルボカチオンを生成するから、という内容だったのです。

カルボカチオンの転位

反応機構にカルボカチオンが含まれていたら、必ず考えておかなければならないことがあります。

それは、カルボカチオンの転位です。隣の炭素の水素やアルキル基が転位することで、より安定なカルボカチオンとなることができるために起こります。

ヒドリドシフト

例えば、3-メチル-1-ブテンの反応を見てみます。

1段階目は、マルコフニコフ則に従い、第2級カチオンが生成します。

ここで、正電荷の隣の原子であるC-3についている水素が正電荷をもつ炭素移動(シフト)して、C-3に正電荷が移ります

ヒドリドシフトの様子

転位することで、第2級だったカチオンは、第3級のカチオンになることができます。

多くのカチオンがより安定なカチオンに転位して反応が進行するので、主生成物は2-ハロゲン化-2-メチルブタンとなります。

アルキルシフト

水素だけでなく、アルキル基も転位することができます。

3,3-ジメチル-1-ブテンの反応では、先ほどと同様に

1段階目は、マルコフニコフ則に従い、第2級カチオンが生成します。

ここで、正電荷の隣の原子であるC-3についているメチル基が正電荷をもつ炭素移動(シフト)して、C-3に正電荷が移ります。

アルキルシフト

こちらも、多くのカチオンがより安定なカチオンに転位して反応が進むので、主生成物は2-ハロゲン化-2,3-ジメチルブタンとなります。

この反応に限らず、カルボカチオンを中間体とする反応では、カルボカチオンの転位を考えるのを忘れないで下さい!

また、転位するのは第2級→第3級となれるときだけでなく、転位することで共鳴などにより安定となる場合も転位します。

まとめ


  • アルケンハロゲン化水素が反応すると、ハロゲン化アルキルが生成する
  • 反応途中にカルボカチオンを経由する
  • 付いている水素が少ないほうの炭素にプロトンが付加するマルコフニコフ則は、より安定なほうのカルボカチオンを生成するため
  • 隣の炭素についている水素やアルキル基が付け替わることで、より安定なカルボカチオンとなるときは、転位する

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