アルケンのヒドロホウ素化-酸化
高校の化学までは、一分子と一分子の反応で何ができるのかを”覚えて”きたと思いますが
大学では、目的の分子を得るために、2段階以上の反応を経ることがあります。
上の反応式のように、数段階の反応を1つの→にまとめて書く時、1. 2.のように段階を試薬の前に示します。
アルケンはBH3/THFによるヒドロホウ素化、H2O2, OH–, H2Oによる酸化の2段階反応で、アルコールに変換できる
試験では、これらの試薬などを覚えておかなければならないですが、暗記苦手マンにはとても無理です…
試薬が書かれているからには、それぞれの試薬には役割があるわけです。
それを”理解”することで、この反応を書けるようにしましょう。
また、水付加との違いを理解することも重要です。
反応機構(補足)
正直言って、試験に限れば反応機構を問われることは少ないと思うので、覚えなくていいです。
ですが、一度は目を通して試薬の役割を確認しておきましょう。
2段階の①ヒドロホウ素化、②酸化を分けると次のように書けます。
①ヒドロホウ素化
ヒドロホウ素化は簡単です。
- ホウ素が求電子剤として働き、アルケンのπ電子を受け取り結合形成すると同時に、ヒドリドイオン(BH3のH-)が求核剤として、ホウ素と結合してないほうの炭素に結合する
(このとき、ホウ素(求核剤)が結合するほうの炭素はマルコフニコフ則的に決まる)
ホウ素が結合するほうの炭素は、マルコフニコフ則に従って決まります。
上の例では、Hがついているのが最も多い、末端C-1の炭素に結合することで、安定なカチオンとなることができる※ので、C-1にホウ素が結合します。
カルボカチオンの安定性は第3級>第2級>第1級>メチルだったね
※この反応は、結合切断と結合形成が同時に起こる(上の図の矢印移動がいっぺんに起こる)協奏反応なので、カルボカチオンが発生しないことに注意!
んー、THFはどこいった?と思うかもしれないですが、その役割は後に解説します。
②酸化反応
酸化反応の機構は少し長いです。
- 過酸化水素イオン(–OOH)が求核剤として、ホウ素に電子供与
- ホウ素上の負電荷を解消するため、アルキル基が酸素上に転位して、水酸化物イオンが脱離
- 水酸化物イオンが求核剤として、ホウ素に電子供与
- アルコキシド基の脱離によりホウ素上の負電荷解消
- アルコキシドイオンが水からプロトンを受け取ってアルコールを生成
余談ですが、
アルキルシフト以降の機構は、OHがくっついて、その代わりにアルコキシド基が脱離するという一連の流れや、全て平衡反応であるという点で
ハロゲン化アシルの反応やエステルの加水分解に代表される四面体中間体を経由するアシル化合物の反応に似ているなぁと感じます
一緒に見ておくと理解しやすいと思います。
反応について
THF(テトラヒドロフラン)の役割
THF(テトラヒドロフラン)は、水に溶け、多くの有機化合物を溶かすために、しばしば用いられる溶媒です。(ちなみに、フランは下図のような芳香族化合物で、THFはフランに水素(ヒドロ)が四つ(テトラ)追加されているのでこう呼ばれます。)
また、酸素の非共有電子対があるため、配位子やルイス酸として働きます。
さて、ヒドロホウ素化になぜTHFが使われるか、についての回答するには、まずBH3(ボラン)について知る必要があります。
ホウ素Bの価電子は3個で、BH3のB周りの電子は6個になります。これでは、原子の最外殻電子が8個であるときに化合物が安定であるというオクテット則を満たせません。
これを解消するためにホウ素は二量体を形成しジボランとなっていて、下の図のように特殊な結合(三中心二電子結合:点線部分で2個の電子を共有)をしています。
このジボランは有毒で、爆発性を持つので非常に扱いづらいわけです。
そこで、THFの酸素にボランが配位することで、安定な錯体を作ることができるので、より扱いやすいBH3源となります
なので、実際にはこの錯体がアルケンに近づいていく感じになります。
水付加との違い
アルケンからアルコールを合成する他の方法として、アルケンへの水付加が挙げられます。
2つの反応の違いは、置換基の付く場所の違いです
反応式を見るとわかる通り、
水付加では、最も多く水素が結合している方の炭素に置換基がつく
→マルコフニコフ則 (より安定なカルボカチオンを生成するため)
ヒドロホウ素化-酸化では、水素が少ない方の炭素に置換基がつく
→逆マルコフニコフ則
いずれの理由もカチオンの安定性から説明できるものです。
ヒドロホウ素化では、ホウ素の付いていない方の炭素が部分正電荷を帯びるため、ホウ素は水素が少ない方の炭素に結合します。次いで、ホウ素がアルコールに代わるので、水付加とは逆の選択性となります。
つまり、1段階目のホウ素の付加はマルコフニコフ則的で
最終的に生成するアルコールは逆マルコフニコフ則的な化合物ですので、間違えないように気を付けてください!
まとめ
- ヒドロホウ素化-酸化は2段階反応であり、
1段階目はBH3/THF
2段階目はH2O2/OH–/H2O
により反応させる - ヒドロホウ素化-酸化により、水付加とは逆の位置にOH基を付けられる
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